ビロードのような美しい白カビに覆われたシャウルス。戦後近代化が進み、20世紀後半には酪農工場が生産するようになりました。農家製はないと聞いていたのですが、あるシャンパーニュの本の中に農家製が復活しているという記事を見つけました。早速アポをとり、実際に訪問してからもう20年が経過しました。当時、地平線が見えるほどの牧草地が広がる農場で出迎えてくださったのは4代目のリオネル・ドーヌ氏でした。“ 自分の育てた牛の乳でチーズをつくりたい” と1994年にアトリエを建てた彼から、4年間の試行錯誤の末に農家製シャウルスを完成させたお話を伺いました。シャンパーニュと合わせていただいたシャウルスは、軽い酸味とクリームの香りが心地よく広がり、泡雪のような口溶けに感動したことを思い出します。 いつもニコニコ笑顔のリオネル氏とは隔年開催されるサロン・ド・フロマージュで親交を深め、日本にも2度来日くださいました。コロナウイルスが蔓延する直前2020年2月のフェルミエツアーで訪問したことが懐かしくなります。ドーヌ家の農場は250ヘクタール、搾乳牛は180頭、年間搾乳量は150万リットル。当初は牛乳販売で生計をたててきましたが、チーズ製造が少しずつ増えて週4回製造するようになったそうです。農場経営は娘さんご夫妻に引き継がれ、現在は娘のペギーが牛や草地の管理、婿のダヴィッドがチーズ製造の責任者です。製造は朝7時からスタートします。大手工場はオートメーション化が進んでいますが、ここでは丁寧な手作業で型入れが行われ ます。翌日5時には型から出して塩漬けして乾燥室に移され、その後は熟成室に移動させ、週2 回反転しながら熟成具合をチェックしているのです。クリーミィで濃厚なのに爽やかな味わいはとてもエレガント。クリームの香りとともにふんわりとシャンピニョンの香りも広がります。日本の暑い夏、きりっと冷やしたスパークリングワイン や酸味のある白ワインと合わせてお楽しみください。